■01 少女の憂鬱 上岡 由佳里 3 kb
■02 女教師の供物 門倉 葉子 9 kb
■03 恵泉で名を馳せる者たち 上岡 由佳里 18kb
■04 夢を継ぐ者 菅原 君枝 17kb
■05 二十二輪の黒い薔薇 上岡 由佳里 44kb
■06 五つの告白 ―― 9 kb
■07 少女の戸惑い 上岡 由佳里 5 kb
■08 黒髪の姫君 十条 紫苑 12kb
■09 栗毛の騎士 厳島 貴子 11kb
■10 ロミオとジュリエット再び 小鳥遊 圭 18kb
■11 嘘つきと小悪魔 御門 まりや 34kb
■12 そして舞い散る赤い薔薇 周防院 奏 17kb
■13 琥珀の君 上岡 由佳里 10kb
□99 後書き ―― 4 kb




だって、みんなが幸せになれないと、面白く無いじゃないですか!
そう思いませんか?
 みんなみんな頑張ってるんです……きっと、頑張っただけの何かがあるんですよ。

――高島 一子









「……アレはほんとうのこと、だったのですね」

 それは……。
 厳島貴子にとって、忘れ得ぬ過去。
「もう二度と、私のことを『お姉さま』などと呼ばないでっ……!」
 ……決してやり直すことは出来ない、深い深い過ちと、後悔。






「ならば問おう、宮小路瑞穂っ!」

 舞台の上で、まりやと瑞穂とは対面していた。
 指を突き付けるまりやと、それに押されるようにしてのけぞりがちな瑞穂。
「先ほどの件を置いたとしても、昨年の学院祭で生徒会長・厳島貴子のファーストキッスを公衆の面前で奪い去ったことは疑いようのない事実っ!」
 会場のあちこちで、「きゃーっ」と黄色い声があがった。
「そ、それは不可抗力で……」
「不可抗力であろうと事実は事実。認めましたね、宮小路瑞穂!」






(中等部から恵泉に来たあたしに……はじめに声を掛けてきたのが美智子だった)
 第一印象は、女子校で純粋培養された可愛いらしいウサギさん。
 美智子の穏やかな声と愛くるしい瞳が、そんな印象を持たせていた。
 ……のだけれども。

(アレは、兎の皮をかぶった狼……どころか悪魔。それも淫魔のたぐいかしら)
 美智子の外見と中身のギャップを思い出して、圭はクッと小さく笑った。






「紫苑さまも紫苑さまですわ。奏さんが泣きそうになっているではありませんか」
「まあ……私、叱られてしまいましたわ」
 貴子に云われ、紫苑は奏を拘束していた腕を渋々と放した。
 そうすると、奏は紫苑から離れ、貴子にくっつくように身を寄せる。

「……ああ、しかも奏ちゃんも取られてしまいました……」






この作品はキャラメルBOXの『処女はお姉さまに恋してる(おとめはボクに恋してる)』の二次創作小説です。
ネットでは『おとボク』『おボクさま』などの愛称で知られ、一部で熱狂的な支持を得つつもいまだマイナーな作品。

伝統的なお嬢さま学校に、美少女と見紛うほどの男の子がその正体を隠し女装して通うというコメディータッチな物語です。
ソフト百合的な空気が爽やかに流れる学院。
そこに編入してきた主人公の瑞穂(男)を中心に、ほんわか風味で描かれる学園物語。


……拙作『ラストカーニバル』は、『おとボク』の最終話直前を描いた物語です。

そのため、本編『おとボク』の激しいネタバレはもちろん、本編を未クリアの方には非常に理解しにくい内容となっております。
最低でも、『おとボク』の体験版で一話と二話をプレイしていなければ厳しいと思います。
また、製品版を未プレイの方は、拙作の『七月の間奏曲』を読めばいくらか理解しやすくなるかもしれません。


……上級生たちの卒業式が間近に迫っている、テスト休みのある日。
恵泉女学院で行われることになったある風変わりなイベント。
恵泉に吹き荒れる黒い薔薇の嵐……果たして、そのイベントの勝者となるのは……?


※この二次創作小説は、『おとボク』本編を参考に描かれています
 『やるきばこ』におけるショートシナリオ等は参考にしていません

 また、このエピソードは本編ルートから外れていますが、いずれのルートからでもあり得る可能性の話……と思ってご覧下さいませ








「いいぃいやぁああぁーーっっ……!!」

 由佳里が生まれてこのかた、一番大きく悲壮な声で絶叫した。
「まりやお姉さままりやお姉さままりやお姉さまっ! まりやお姉さまですねっ!?」
「おう、いえー」
 まったく悪びれない顔で笑い、親指をビッと突き立てるまりや。






 ……あの日から、毎朝髪を編むことが君枝の習慣となった。

 中等部二年になったので勇気を出して生徒会の門戸を叩いたとき、すでに生徒会長となっていた貴子は、果たして自分のことを思い出してくれた。
 そのときの感動は、君枝にとって忘れられない、大切な宝物で……。






 生徒会メンバーが、心配そうに貴子を取り囲む中。
 そんな貴子の正面に圭は歩み寄り、ビシッとその指を突き付けた。

「……その様子ですと、会長もすでにおわかりになっているようですね?」
「ももも、もちろんですわ! こ、このわたくしが優勝するためには……皆さんに勝つためには……」
 覚悟を決めたのか、貴子はぐっと背筋を伸ばし、胸を張った。
「きききキッスを……お姉さまとキッスをしなければ、勝利など望めませんわっ!!」
 おおおーっと、怒濤にも似た歓声があがる。






「覚えていますか? 私たちが初めて出会った、あの時のことを……」
 ゆっくりと、ほんとうにゆっくりと、紫苑は瑞穂に向けて歩いていく。

「忘れることなど出来ません。あの桜並木の下で、私たちは出会った」
 紫苑の問いに、瑞穂がそのよく通る声で答えた。

「五月の優しい風が吹く中、私たちはあそこで出会った。あの並木道に桜の花が咲く頃……私たちはここを巣立ち、別れていくことになるでしょう」

『ラストカーニバル』


それは、別れを前にした、三月半ばの物語





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