第4話 08/04



(1)安宿…往人…

夢を見ている。
背中に羽を持つ少女が、俺の前で空に飛び上がって消えていく夢。
少女が、胸に矢を受けて倒れた俺を抱いて、悲しんでいる夢。
そして…俺の前で、美しい女性がなにやら術を行使している夢。
なぜだ…? 俺はその女性に会ったことがないはずなのに、なぜか俺は彼女を知っている。
そんな感じがする…。
そして、彼女は俺のほうを向き、何かを訴えようとする。
しかし、彼女が口を開いたところで、視界が白で染め上げられ、俺の意識は現実へと引き戻されていく。

「朝…か…?」
俺は目を覚まして、起き上がった。 俺の上にかかっていた毛布がはらりと落ちる。
部屋には、観雪の姿はない。
「お、やっと起きたな。 居候。 あ〜、いい湯やった〜」
ふすまが開いて、浴衣を着た晴子がやってくる。 どうやら、温泉に入ってきたようだ。
「観雪は?」
「あぁ。 あの子なら、また悠とかって坊主のところに遊びに行ったで」
「そうか…」
ぼそりとつぶやく俺に、晴子が言う。
「なんや、観雪のことが気になるんか?」
俺は首を振って答える。
「いいや。 さ、俺も風呂に入るか!」



(2)公園…往人…

温泉から上がった俺は、お土産屋の通りを歩いていた。
そこそこ観光客がいるらしく、通りはそこそこににぎわっていた。
俺は、店をながめながら、あの夢のことを考えていた。
すると。
「うぐぅ〜。 どいて〜」
「ん?」
どんっ!
後ろから何かに激突された。
「いてて…なんだよ一体…」
後ろを向くと、そこにいたのは、羽つきのリュックを背負った女の子だった。
「こら、もう逃がさないぞ! 警察に引っ張ってってやる!」
その後ろから、食べ物屋の主人らしい男が走ってきて、女の子をつかまえた。
「うぐぅ、許して許してっ」
「許してですんだら警察はいらねぇんだ。 さっさと来い!」
あまりに女の子がかわいそうになってきたので、助け船を出してやる。
「おいおい、あまり乱暴にしてやるなよ。 こいつが何したかわからんが、
 金なら俺が払ってやるから」
「お、いいのかあんちゃん? しめて2万円だが」
に、2万円…。 俺は少したじろいだが、女の子のためと、さいふからお札を取り出した。
「ほれ」
「まいどあり。 ガキ、もう食い逃げなんかするんじゃねえぞ!」
「うぐぅ…ごめんなさい」
男は去っていった。
ふと下を見ると、そこにはたいやきの入った袋が落ちていた。
俺はその袋を拾うと、女の子にそれを渡してやった。
「うぐぅ…ありがとう」
「全く…こんなものを盗むなんて。 良心というものがないのか?」
「うぐぅ…ごめんなさい」
「まぁいいや。 もうするんじゃねぇぞ。 じゃあな!」
俺はきびすを返すと、その場を立ち去ろうとした。 すると
「あ、待って!」
女の子が俺を呼び止めた。 俺は向き直って聞く。
「なんだ?」
「あのね…。 想いが集まれば、きっと奇跡は起こるよ。 じゃあね!」
そして女の子は去っていった。
俺は彼女の言葉の意味がわからず、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた…。



(3)街の見える丘…観雪…

そのころ、観雪ちんは悠くんと、また街が見渡せる丘に登っていた。
頂上に着くと、悠くんはスケッチブックを広げて、スケッチを始めた。
一方の私は、そんな彼を見つめながら考えていたの。
どうやったら、悠くんを助けられるのかなって…。
もう、誰とも別れたくない。 あんな別れはもうたくさん…。
ふと、ポケットから人形を取り出して、力をこめる。
ぴょこんっと起き上がって踊りだす人形。
観雪ちんの意志を受けて、人形はくるくると踊りだす。
人形をひととおり踊らせると、力を抜く。 ぱたっと倒れる人形。
ふと横を見ると、悠くんが私と人形を見ていた。
「でも、いつ見ても不思議だね。 その人形」
「てへへ、そうかな?」
「うん。 なんか、そんな力を持ってる観雪ちゃんがうらやましいなぁ」
「ありがとう、悠くん。 でも…」
「ん、何?」
きょとんを聞き返す悠くん。 私はつい、ぼそっと言っちゃった。
「この力で、悠くんの病気を治せたらいいのに…」
「え?」
私ははっと我にかえって、手をふる。
「うぅん、なんでもない、なんでもないっ」
「? おかしな観雪ちゃん」
「あはは…」
ちょっと照れ隠しで笑う観雪ちん。
でも、そのとき!
どさっ
「うぅ…」
突然、悠くんが倒れた。 顔に苦痛の表情を浮かべて。
「悠くん、どうしたの、悠くん!?」
「い、痛い…。 どこかわからないけど…痛いよ…」
「しっかりして、悠くん! 悠く…うっ!」
突如、私の体にも激痛が走って、私も気を失って…

あぁ…お父さん…マ…マ…



To Be Continued...

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