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 長い間そのままで居た気がした。
 俺はもう泣いていなかった。
 俺は自分よりもずっと小さな身体にすがりついたままだった。
 手を離したくなかった。
 離したら二度とつかめないと思った。
 自然に抱きつく腕に力がこもった。
 相手は動かない。
 それが更に不安をかき立てた。
 その身体は俺の腕の中に、
 その両腕は俺の頭を抱えているのに。
 怖かった。
 一度吹き出してしまった恐怖はすぐには抑えることは出来なかった。
 今の俺に唯一すがれるモノだった。

 すっと頭を抱えていてくれた腕の感触が消えた。
 続いて俺の中の存在も。
 俺は驚き顔を上げた。

 世界の様子は変わっていた。
 雲が、空が、太陽が存在していた。
 紅い。
 全てが紅かった。
 燃え立つ太陽が全てを紅く染めている。
 雲も空も紅く染まっている。
 その中を俺は探した。
 居た。
 俺の目の前に、彼女は居た。
 大きな瞳で俺をみつめながら。
 いつもと同じ姿で、
 初めて逢ったときから変わらぬ姿で、
 俺と約束を交わしたときと同じ姿で。
 その口が開かれる。
(だいじょうぶ。どこにもいかないよ)
 そして再び約束の言葉が……
(ずっといっしょにいるよ)

 少女は俺のそばにやってきた。
 俺は彼女を見つめる。
 彼女は俺を見つめる。
(こころぼそかったんだね?)
 ……ああ。心細かったんだ。
 ……たった一人ここに居るのは心細かったんだ。
 ……俺は人のぬくもりを再び知ってしまった。
 ……もうたった一人になるのはイヤだったんだ。
 彼女の瞳に吸い込まれそうになる。
(ここにはわたしがいるよ。ひとりぼっちになんかならないよ)
 ……ああ、そうだな。ここにはキミが居る。
 ……そうだな。寂しくなんかない。
 ……もう寂しくなんか……
 少女は、俺の後ろにまわり俺を背後から抱きしめてくれた。
 以前、俺が風を感じられないと言ったときのように。
 あの時と同じように。
 違うのは俺の身体が前より大きいということだけだ。
 それでも彼女の小さく細い腕が俺の全身を包み込んでくれているような感じがする。
 感覚がとぎすまされる。
 風を感じる。
 雲の流れを感じる。
 太陽の動きを感じる。
 俺の存在を感じる。
 全てが紅く染まる。
 真っ赤に染まる。

 太陽は紅く。
 空は紅く。
 雲は紅く。
 俺も紅く。
 少女も紅く。
 全てが染まる
 全てが同じ色だ。

 俺はいつも夕暮れを見ていた。
 いつかあそこに行くと。
 今、ここにいる。

 全身を真っ赤に染めて。
 全てが同じ色。
 全てが同じ。
 俺はここに居ることを実感した。

 真っ赤に染まった空の向こうに俺が元の場所に残したものが見えたような気がした。
 俺はあそこに戻れるのだろうか?

 風が吹く。
 雲が流れる。
 太陽が沈む。
 空が蒼く暗くそまっていく。
 俺はそれをじっと見続けていた。



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