第1話 08/01・昼
「うわ、すごい熱いな。 大丈夫か、観雪?」
「うんっ。 全然平気だよ」
「おい、居候。 うちには心配の言葉はないんか?」
「お前は心配しなくても大丈夫だろ」
「何言ってるんや。 この甲斐性なしがっ」
ぽかっ。
「いててっ。 殴ることはないだろ?」
「あわわ、ママ、お父さんとけんかしたらダメっ」
「わかってるって。 ただのスキンシップや。 安心し」
「今のどこがスキンシップだよ…」
そんな会話を交わしながら、俺たちはその駅に降り立った。
俺は国崎往人。
ある一つの目的のために旅をしている。
その目的とは、空の上にいるという少女を救うこと。
そして、その少女の夢を見ている人を救うことだ。
その旅の途中、俺はある海辺の街に立ち寄った。
そこで俺は、さっき俺を殴っていた女性、神尾晴子と、その養女だった観鈴とであった。
俺は晴子の家に居候することとなり、そして…観鈴と恋に落ちた。
だが、ある病気…いや、呪いによって観鈴は命を落とすことになってしまった。
それから、10年後、俺は再びこの街を訪れて、そして俺と観鈴の間の娘、観雪と出会った。
彼女は、人形使いの俺の血と、空の少女とつながりのある母親、観鈴の血の
配合によるものなのか、彼女は俺よりはるかに強い力を持っていた。
俺は迷った。 空の少女を助ける旅に彼女を連れて行くかどうかを。
悩んだ末に、俺は観雪に選択をゆだねることにした。
そして結局、彼女は俺に着いていくことを選んだ。
普通の少女として暮らすことより、空の少女を救うために苦しい旅の身をさらすことを。
飢えにも寒さにも苦しむことなく、安寧に暮らすことより、まだ見ぬ苦しんでいる人を救うために、
身を苦難にさらすことを。
そして、俺たちの新たなる旅立ちから1年の時間が過ぎていた。
「よし、じゃ始めるか、観雪」
「うんっ、観雪ちん、がんばるっ」
かくして俺たちは芸を始めた。
俺が念をこめると、俺の相棒の人形がひょこっと立ち上がる。
同じく観雪も念をこめ、人形を動かし始める。
そして俺と娘の人形は見事なフォークダンスを始める。
華麗なまでにくるくると踊る人形。
こんな気の合うコンビネーションが出来るのも、俺と観雪の特訓と、血のつながりの為せる技だろう。
…って自惚れか? そうではないと思いたいな。
ダンスが終わると、何時の間にか集まっていた観客たちは、晴子の持っている缶に紙幣やコインを入れて
去っていく。
しばらくすると、辺りには誰もいなくなっていた…。
いや、いた。
年のころは観雪と同じくらいだろうか?
車椅子の少年が、動かなくなった人形を興味深げに見つめている。
その少年は人形に手を伸ばそうとして…
どさっ
「うわっ」
車椅子から転げ落ちた。
「あわわ、大丈夫ですか?」
彼を気遣う観雪。
俺は駆け寄って、その少年を助け起こそうとした。
「ほら、つかまれ、坊主」
「う、うん、ありがとうございます…」
「気にするな。 困ったときはお互いさまだ」
俺はそう言って微笑み、立ち上がらせようとした。
が。
「…!」
俺も、晴子も、そして観雪も息を飲んだ。
彼の足は骨がないかのようにふらふら、かくかくしてて、立つ事もままならないようだった。
そして、俺の腕には、つかんだ彼の手の震えが伝わってくる。
衝撃が、俺の全身を駆け巡る。
おそらく、観雪も晴子も、同じような衝撃を受けているのだろう。
俺は恐る恐る聞いて見た。
「なぁ坊主、大体どのくらい前からこんなんだ?」
「え、えーと…1週間ぐらい前からかな?」
「それで、そのころから変な夢を見たことないか?」
「うーん…」
思い違いだろうか…そう思ったのもつかの間。
「あ、見たことある。 空に浮かんで悲しんでいる女の人の夢」
やっぱり…。
なんという運命の巡りあいだろうか。
こんなところで、観鈴の代わりとなって『夢』に苦しむ人と出会うなんて。
しかも、症状はかなり進んでいるようだ。
俺は今更ながら、『空の少女』を恨みたくなった。
例え、彼女に悪意はないとしても。
「そうか…そういえば坊主、名前は?」
「名前ですか?」
「あぁ。 いつまでも坊主というのもなんだしな」
「そうですね、僕の名前は佐波悠(さなみ ゆう)といいます」
それが、俺たちの出会いだった…
To Be Continued...
◇