track 23……Little tragments



 そして、さらに数年後…。



 勤め先に秋子さんから電話がかかってきて、俺は慌てて病院に駆け込んだ。

「秋子さんっ」
「よかった、祐一さん」

 秋子さんに駆け寄ってから、乱れた呼吸を落ち着けようと深呼吸する。

「そ、それで、あいつはっ?」
「わたしと、一緒に買い物をしていたんだけど。いきなり陣痛がはじまって…。いまは、この中よ」
「分娩室っ!? もう生まれるんですか? だって、予定より全然…」

 足が浮き立つ。
 まるで現実感がなかった。

「あいつは、大丈夫なんですか? それに…子供は…」
「祐一さん、落ち着いて」

 秋子さんに肩をおさえられ、うながされて据え付けられた椅子に座る。

「だいじょうぶ。きっと、だいじょうぶだから」
 聞き慣れた、だけど相変わらず安心感を与えてくれる、秋子さんの微笑み。

「…そうだ。ねえ、子供が産まれたら、なんて名前にするの?」
 俺の気持ちを落ち着かせようとしてだろう、秋子さんがそんなことを訊いてきた。

「男の子でも、女の子でもつかえる、あの名前を付けてやろうって」
「そう。すてきね」
「でも…。あいつも一緒に賛成してくれてたのに、最近になって駄目だって言うんですよ」
「あら、どうしてかしら」

 ああもう、逆に不安になってきた。

 しかし、それも長くはなかった。

 病院の廊下に、泣き声が響き渡る。
 命の雄叫び。

 …赤ん坊だ。

「おめでとう、祐一さん」
「…は…はいっ…!」

 俺の子供。
 俺とあいつの、子供…。

 胸の中が幸福感で溢れ、熱くなる。

「あら?」
 秋子さんの言葉に我に返ると…。

 赤ん坊の泣き声が、二重奏になっていた。
 子供たちのデュエット。

 俺と秋子さんは、顔を見合わせる。

「あらあら、どうしましょう?」
「どうしましょうか?」

 そうして、俺たちは声を立てて笑った。

 …あいつめ、双子だって知ってたんだな。





後書き