3:



 世界は赤かった。
 夕暮れ?
 いや、朝焼けだ。

 少女は居なかった。
 俺は少女の言葉を思い出していた。
(もとのせかいとまだつながっているんだよ)
 元の世界?
 俺の存在が全て消えた世界とまだつながりがあるという事なのか?
 頭の中で何かが弾けたような気がした。
 途端、いろんな事が思い出された。

 元の世界との繋がり……
 俺の存在が全て忘れ去られ、消えたはずの世界にたった一つの俺の居た証拠。
 とてもとても小さく、
 とてもとても細く、
 でも、
 とてもとても強い、
 俺をつなぎ止めてくれるもの。

 それは……
 あいつとの想い出。
 あいつへの俺の想い。

 あいつの心。
 もうあいつの心の中からさえも俺は消えているかもしれない。
 でも、俺が、俺が覚えていれば、
 俺の中から消えることが無ければ、
 俺はきっと戻れる。
 俺はそう確信していた。

 俺はそう心に刻み込んで、『ここ』にやってきたはずだった。
 俺はきっと帰るって約束したのに……
 なんで忘れていたんだろう……

 元の世界に戻りたい。
 俺には残してきてしまったものがある。
 俺の一番大切なもの。
 あいつにもう一度逢いたい。

 俺の心に流れ込んでくるものがあった。
 あいつの心。
 まだ俺の存在はあいつの心の中に残っていた。
 かすかだが強く……
 これこそが向こうとこちらを繋ぐもの。
 それこそが俺を元の場所に帰してくれる『楔』だ。
 こんなにも強い。

 俺は同時にもう一つの『楔』を見つけていた。
 俺を『ここ』に繋ぎ止めているもの。
 幼い頃の俺が『ここ』に打ち込んだもの。
 それを断ち切れば俺は戻れる。
 漠然とした思いつきだったが、俺はそれが正解であると感じていた。



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