履歴……『ONE』+『Kanon』二次創作小説、『Amnesia』


2000年10月03日……『Amnesia』のプロットを書き始める。

2000年10月17日……プロットを書き終え、清書にとりかかる。

2000年10月17日〜30日……indexに、予告編(1)を掲載。

2000年11月02日〜08日……indexに、予告編(2)を掲載。「Amnesia02.html」とほぼ同内容。そのため、ここでは掲載せず

2000年11月08日……『Amnesia』、公開。


予告編(1)

「…約束、だよ」




1998年

不意にもうひとつの世界が生まれる

それはしんしんと積む雪のように
ゆっくりと日常を埋めていく

そのときになって初めて気づいたこと

繰り返す日常の中にある変わりないもの

いつでもそこにある見慣れた風景

 好きだったことさえ気づかなかった、大好きな人の温もり 

すべてがこの世界に繋ぎとめていてくれるものとして、
存在している

その絆を、大切な人を

初めて求めようとした瞬間だった


時は巡り、やがて季節は陽光に輝きだす

そのときどんな世界に立ち、
そして誰がこの手を握ってくれているのだろうか




「茜。俺のことは忘れろ」
「…嫌です」

「忘れるんだ」
「…絶対に嫌です」
「詩子なんて嫌いです。
…大嫌いです」
「らしくないよね、あたし。
本当にらしくないよ…」
「クラスメートの名前くらい覚えておけよ」
「…クラスメート」

「同じクラスの折原だ」
「いとこの男の子、覚えてるわよね」
「…え?」
「こうして祐一君と一緒にいられることが、ボクにとってはかけがえのない瞬間なんだよ」
(ふと悲しくなるのは、なぜだろう。
俺は、なにか大切なことを忘れているような気がする)
『Amnesia』

2000年11月公開予定

おまけ(柚木詩子の場合)。本編がぼやけてしまうため、使用せず。




   1998年01月26日、朝。

 季節はずれの嵐。
 家を出たはずなのに、学校へ来ていない茜を心配し、探しに出ようとする浩平。

 そんな浩平を、学校に遊びに来ていた詩子が引き止める。

「そんな格好で外に出るの?」

 心配そうに、浩平を引き止める詩子。

「時間がないんだっ」
「だったら、これ持っていっていいよ」

 そう言って詩子は、持ってきていたブルーの傘を、浩平に差し出す。

「傘くらいないとね」
「…でも、いいのか?」
「事情はよくわからないけど、茜の為なんでしょ?」
「……」

 いつもの、軽やかな笑みを向ける詩子。

「だったら、遠慮なく持っていって」
「…助かる」

 差し出された傘を無造作につかんで、浩平は昇降口から走り出ていった。

「茜のこと、お願いね! あと、傘壊さないでよーっ」

 その浩平の背に、詩子は大きな声で励ました。

(…大切な傘なんだからね)

 そんな風に思った自分に、詩子は首を傾げる。

(あの傘、どうして大切なんだっけ?)

「…っていうか」

 詩子は、昇降口から、雨吹き荒れる外を眺めて苦笑する。

「どうやって、自分の学校行こうか?」



 翌日。
 浩平が、詩子に話し掛けている。

「柚木」
「あ、昨日はお疲れさま。茜から、だいたいのことは聞いてるよ」
「ああ…。傘、ありがとな。ホントに、感謝してるよ。それでな、柚木…」

 浩平は、ブルーの傘を取り出す。
 昨日の嵐で、ずいぶんと変わり果てた姿になっていた。

 ひしゃげた骨、破れた布地。

「…すまん、こんなになっちまった」
「……」
「ごめんな。代わりに、オレが新しいの、買ってやるから」
「……」

「…柚木?」

 傘をボンヤリと見つめていた詩子の瞳から、涙がこぼれていた。
 嗚咽もなく、ただ、静かに涙が流れている。

「あ、あれー? おかしいな…」
「柚木…」
「あれれ? と、止まらないよ。ど、どうしてかなーっ?」

 泣いている所を見られて恥ずかしくて、詩子は慌てて、袖で涙を拭う。
 けれど、涙は止まらない。

「…どうしてかなぁ…?」
「悪い、柚木。ホントに、大切にしてたんだな…」

 いままでの詩子からは想像できなかったその様子に、浩平は正直驚いていた。
 そして、それほどまでに、この傘が詩子にとって大切な物だったのだと理解する。

「い、いいよー。だって、茜のためだったんだし」
「……」
「折原君が茜のためにって。…それなら、いいよ、あたし…」

(ただ…なんだかとても、悲しいよ。思い出したいのに、同時に忘れていたいとも思っていて、思い出せない。
 変な感じ。胸の奥に、どうしても動かせないモノがあって。
 それがとても大切なモノだとわかっているのに、どうしても触れることができないような…)

 詩子は、親友の茜と、目の前の浩平と3人でいるときに感じる空気が、好きだった。

 いまは失ってしまった、昔の頃を思い出せるようで。
 3人でいるのが気に入って、こうやって何度も遊びに来るようになっていた。

「…ごめんな」

 そう言って、いつもは憎まれ口を叩いてくる浩平が、自分のことを思いやってくれる姿。
 そんな様子に、詩子は不思議と、胸を締めつけられるような切ない感情を覚えていた。



 …――もうひとつの結末、そして、あるいは、もうひとつのはじまり。




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