第2話 08/01・夜〜08/02



(1)08/01・夜
この街の安宿、そこに俺たちは身を休めていた。
安宿ではあるが、手入れは行き届いており、不快感は毛ほども感じられない。
たたみの上に横になりながら、俺は一つのことを考えていた。
昼に出会った少年、悠のことを。
「ねぇ、お父さん…」
「ん、なんだ観雪?」
「あの悠くんって、やっぱり…」
観雪の考えていたことも俺と同じだったようだ。
俺はうなずいて答えた。
「あぁ。 観鈴の代わりに、『夢』を見る者に選ばれてしまったんだろうな…」
酒を飲んでいた晴子が俺に向き直って尋ねる。
「でも、どういうことや? あの子、症状を進むのが早い気がするで。
 観鈴のときはあぁなるのはもっと遅かったはずや」
「あぁ、それはおそらく…」
「「おそらく?」」
「…」
観雪と晴子が俺に聞き返す。 でも俺は言うのをためらった。
なんか、観雪を傷つけるようなことになりそうだったから。
「…大丈夫、お父さん。 観雪、我慢するから、言ってみて」
ふと見ると、観雪は手を俺の手の上に載せていた。
そうか…俺の心を読んだのか。
「ふぅ。 観雪に心を読まれてはしかたないな。
 …多分、観鈴が『夢』を見ないように努力した分、彼にその分が回ってきたんだろう」
「そうか…。 お母さんが観雪を生まなければ、あの子は…」
表情を暗くする観雪の頭に俺は手を乗せた。
「こら。 そうやって、観鈴と自分を責めるんじゃない。
 観鈴は言ってたぞ。 お前なら、空の少女を救うことができるってな」
「が、がお…」
観雪はしばらく考えていたが、やがて顔を上げていった。
「観雪、あの子の側にいてあげて、あの子を助けてあげたいっ」
お前ならそう言うと思ったよ、観雪。
だが、晴子は大反対した。
「ママは反対や。 あの子に近づいたら、お前も…」
人形使いと『空』の記憶を受け継ぐ者が近づいたら、双方とも病んでしまう。
二人とも助からない。
だけど、俺は観雪の決意を止める気はなかった。
「…わかった」
「お、おい居候!?」
「さっきも言っただろ? 観鈴は、観雪ならこの悲しい繰り返しの連鎖を断ち切ることができると言ってたって。
 俺はその彼女の言葉を信じてやりたい。 観鈴を信じてやりたい。
 そして…俺の一族が今まで何年も続けてきたことを信じてやりたいんだ」
「居候…」
晴子は微妙な表情を浮かべていたが、やがて振り切ったような笑みを浮かべて
観雪を抱きしめた。
「うわ、マ、ママ…」
「わかった。 それならうちも観鈴を…観雪を信じるわ。
 でも、無理はするんやないで?」
「うん、ありがとう、ママ…お父さん…」

(2)08/02
(ここからは観雪視点になります)
さて、さっそく悠くんを探さないとね。
えーと、どこにいるのかな…?
私は街を色々と探し回った。
そして、丘の上に座って、町並みをスケッチしてる悠くんを見つけたの。
「こんにちわっ。 絵がうまいんですね」
「あ。 き、君はあのときの?」
「うん、私は神尾観雪。 よろしくね」
「う、うん、こんにちわ…」
「絵を書くのが好きなの?」
「う、うん…」
なんか、まだ表情がかたいなぁ…よしっ。
私はポケットから人形を取り出した。
「あのね。 観雪、こんなことが出来るの。 見てて」
人形に念をこめる。
ややあって、ぴょこんっと起き上がる。
そしてそのまま、人形に色々な動きをさせる。
ジャンプさせたり、スキップさせたり、くるくる回したり…。
すると、悠くんの表情からかたさが消えて、好奇心が代わりに浮かんできた。
そして最後に人形をジャンプさせて宙返りさせて着地させると、
悠くんの表情は輝いていた。 良かったぁ。
「すごいね。 これ、どうやってやってるの」
「うーん、良くわからないけど、超能力みたいなもんかな?」
「超能力かぁ…すごいね」
「にはは、それほどでもないよぉ」

それから観雪ちんと悠くんは時間が過ぎるのも忘れて楽しくおしゃべりして過ごした…



To Be Continued...

NEXT