本文最終更新日……2000年05月22日

『infinity』

制作……株式会社キッド
媒体……プレイステーション
ジャンル……ノヴェル(マルチシナリオ)
発売日……2000年03月23日
値段……6800円
企画シナリオ……打越鋼太郎
原画……影崎夕那
声……フルヴォイス

筆者プレイ開始日……2000年05月04日
購入のキッカケ……『ファミ通』のレビューで、システムを知って

筆者評価点……80点
 名作。
 ただし、それほどの売れ行きではないようだ。
 初期ロットの不具合や回収作業などで、出回っている数は少ないのか?

 このまま、隠れた名作として埋もれてしまうのは非常に惜しい。


 私は、この作品『infinity』(インフィニティ)に80点とつけたものの、75点にしたい気持ちと、85点であって欲しいという思いがある。
 それで、その間を取って80点にしました。

 これについては、後の項で。


あらすじ
 物語は、4月1日 月曜日から始まる。
 主人公の石原誠は、大学のゼミ合宿のため、とある島を訪れた。

 一週間のゼミ合宿で使うロッジでの、始めての夜。

 その夜、誠は奇妙な夢を見る。

 絶望的な夢。
 最愛の女性が、自分の目の前で命を落としてしまうという、最悪な夢。

 この島での一週間のゼミ合宿。
 誠はあの夢を忘れようと務めつつ、仲間たちと楽しんでいく。

 ゼミ合宿班の三人の仲間たち。
 「川島優夏」、「樋口遙」、「飯田億彦」。

 彼らは島で喫茶店を営む「守野いづみ」と、その妹「くるみ」。
 それと優夏の中学時代の級友「朝倉沙紀」たちと出会い、七日間の島での生活を楽しんでいく。

 そんな中、数々の予知?に苛まれる誠。

 自分に予知能力が?
 では、あの悪夢は……。


 ……そして悪夢は、現実となる。


 七日間の生活の中、誠は、ひとりの女性と親しくなっていく。
 彼女と接する内に募っていく想い。

 しかし、運命の6日。
 誠は、最愛の女性を目の前で失ってしまう。

『どうして……?』

 それは誤解、あるいはすれ違い、またはあまりにも不幸な偶然。

 ……けれど、物語は終わらない。

 目覚めた誠は、時が4月1日に戻っていることを知る。

 あれは夢だったのか……?
 いや、夢じゃない!

 目の前で繰り返される、あの日々。
 そんな生活の中で、誠は、最愛の女性を、今度こそ守ろうと奔走する。

 果たして誠は、あの悲劇を回避することができるのか?
 そして、彼女の本当の苦しみを、救うことができるのか……?

 今度は……今度こそは絶対、死なせない。
 今度こそ必ず、君を守ってみせるから……。


キャラクター (ネタバレ注意)
   ●川島優夏(女、20歳、大学三年)

 間違いなくメインヒロインでありながら、いまひとつ人気が出ないであろう不遇な人。

 主人公の石原誠同様、ループする世界の中で、記憶を保持し続ける。
 他のヒロインは記憶を引き継ぐ?ことはないので、ある意味で本当のパートナーと言える存在は優夏だとも言えるだろう。

 メインヒロインでありながら、なぜ人気が出ないのか?
 それは、彼女がメインヒロインらしくないということに起因するのではないかと思う。

 たとえば、優夏シナリオは非常に簡単に突入できる。
 他のゲームでは、メインヒロインのシナリオが一番難しい……ということが多い。

 簡単……どころか。
 他のヒロインを狙っていて失敗した場合、自動的に優夏シナリオに突入してしまう。

 他のヒロインを狙っていた場合は、優夏シナリオ突入はいわばバットエンドだ(笑)。
 これが、優夏への印象を悪くしているひとつの原因。

 そしてまた、メインヒロインの重要要素として、主人公の競争意識を仰ぐライバルの存在だ。
 『infinity』に置ける主人公・誠のライバルは、間違いなく飯田億彦だ。

 ところが、この飯田億彦は優夏に優しい顔をするものの、それは女性一般に見せる彼の態度と同じもの。
 億彦の狙いは、あくまでも樋口遙ただヒトリ。

 そう、ライバルというべき存在が狙っているのは、メインヒロイン以外の別の女性なのだ。
 この点や、他のキャラとの関連からいえば、実は後述する樋口遙のほうが、メインヒロインに相応しい存在なのだ。

 ああ、可哀想な優夏ちゃん(笑)。


 ただ、ひとりのヒロインとして見る優夏は、決して悪い存在では無い。

 お約束ともいえる、”料理下手(というか殺人的)”と”泥酔すると手がつけられない”という特徴。
 容姿も可愛いし、性格も良く、声優も違和感ない。

 料理下手で思い出したが、他によくある料理下手として、”味見をしてない”ということがあるが。
 優夏の場合、味見+何度も作り直し+自分で食べて美味しい=他人には殺人的な料理……という恐ろしい点も忘れてはならない(笑)。

 初日の朝の料理事件はお約束ともいえるが、その後の喫茶店ルナビーチで彼女が一品作ろうとするところや。
 あと、いづみシナリオで誠が優夏の殺人料理を食べなければならなくなるイベントなど、間違いなく笑えるはず(笑)。


 シナリオも、もちろん良い。
 この『infinity』の骨格とも言えるシナリオなので、量・質ともに高い。

 このゲームの初回プレイは、是非とも彼女のシナリオをクリアしてもらいたいものだ。

 シナリオで残念な点がヒトツ。
 最後の最後、なぜ、いちいちあの危険な場所に立つのかが理解できない。

 神社の中に”あの子”は居ないし、裏手にも居ないんだから、そこで立ち去れば良いのに……。
 なんでまた、あそこに立つねん(笑)。


   ●樋口遙(女、19歳、大学三年*飛び級)

 影?のメインヒロイン。
 そして別名を「綾波レイ」(笑)。

 序盤、『エヴァ』で聞いたことあるような台詞がいくつか出てくるし。
 彼女の性格自体が綾波っぽいし。
 さらに、その境遇や出生?がかなり似ている。

 ちょっと、ヲイヲイって感じです。
 この影響で、彼女はかなり損してるような……。

 彼女と親しくなっていき、綾波との差違(笑)がわかってくるにつけ、可愛らしく思えてきます。

 そして明かされる、彼女の出生。

 ネタバレ注意と書いてあるし、どのシナリオでも出てくるので書きますが。

 彼女……樋口遙は”クローン”。
 もっとも、元が同じだっただけで、彼女はいままでの19年間を樋口遙として生活してきていた。

 自分はクローンであり、結局、だれかの代わりでしか無いのか?
 コピーでしかない自分に、心なんて無いのではないだろうか?
 私の存在理由とは……?

 そして、この合宿で彼女は運命の再会を遂げる。

 自分のオリジナルである「守野くるみ」。
 くるみの姉であり、遙と一時的に姉妹として暮らしていた「守野いづみ」。

 遙のオリジナルのくるみが、幼少の頃に失踪し。
 そのくるみの代わりとして、遙は生み出された。


 彼女を苦しめつづける過去の記憶。

 三年も失踪していたくるみが帰ってきて、居場所を失った遙。
 いづみに「わたしの妹じゃない」と、傷つけられた遙。

 守野一家から、結果として追い出されることとなった彼女。

 姉であった「いづみ」へのトラウマ。
 いづみの後悔と、現在のいたわるような微笑み。

 オリジナルの「くるみ」への複雑な感情。
 思慕か嫉妬か?
 それと知らず、自分に無邪気な微笑みを向け、慕ってくれる、くるみ。

 長い間、自分は「必要じゃない、誰かの代わり」と苦しみつづけていた遙は。
 懐かしいこの島で出会いと再会を遂げ、ついに、決着を付ける日を迎えることになったのだ……。

 ……って、なんかあらすじになってるし(笑)。

 遙は、優夏以外の三人のヒロインと、なんらかの関係を持つ。

 一時的にせよ、姉だったいづみ。
 自分のオリジナルのくるみ。
 そして、幼い頃の記憶を互いに誤解して、衝突する沙紀。

 メインヒロインの優夏以上に、他の人物たちと密接な関係を持っている。
 さらに、遙に言い寄る「飯田億彦」の存在。

 『infinity』のメインヒロインは、じつは遙だと思えてしまうよね。

 ……遙の出生とか、もちろん驚かされたものの。
 一番驚いたのが、遙とくるみの声優が同じ人だった……っていう所。

 ぜんっぜん性格の違うふたり。
 それを完全に演じ分けている声優に脱帽。

 遙シナリオの中盤で、秘密を明かされるまで。
 否、エンディングのスタッフロールを見るまで、まったく気がつかなかったです。


   ●朝倉沙紀(女、20歳、大学三年)

 傲慢で天の邪鬼、でもじつは根が優しい。
 自分を裏切ることの無い動植物を愛す……という、典型的なお嬢様タイプ。

 じゃじゃ馬ならしが好きな人なら、その期待に応えてくれるでしょう(笑)。

 ただ、彼女の苦しみはかなり根深い。

「人間なんて信じられない」

 そういって突っぱねようとしたり。
 また、天の邪鬼な性格から、周りに誤解させてしまったりしている。
 悪循環。

 弱いところがあり「人を信じる」ということにとても臆病だったのだ。

 そして彼女は、石原誠を信じようとするのだが……。
 最悪のタイミングであの事件が起こり。
 自分を信じつづけてくれない誠に、とうとう彼女は、自殺してしまった。

 ……そこまで思い詰めていたのかぁ〜っ……と愕然とさせられました。
 優夏と遙のシナリオは、じ〜ん……としたりすることはあったけれど。
 沙紀のこのシーンで、「すまんかった〜ぁ」と泣いてしまいました。

 沙紀の人間不信と、周りに誤解させてしまう性格。
 また、沙紀と遙の不仲が、この沙紀シナリオで明かされ、かつ、和解まで描かれる。
 優夏との過去の出来事も忘れちゃいけない。

 いろいろなことを紐解いていき、沙紀の固い心をほぐしていく様が、見ていて気持ち良かったです。


   ●守野くるみ(女、17歳、高校三年)

 小柄で可愛らしい外見、甘えるような心地良い口調、明るく溌剌な性格。
 理想の妹。

 ただの脳天気なロリっ子と思いきや……じつはかなり深い傷を負っている。
 ある意味では、一番ヘビーかもしれない。

 遙との関係は、遙の項で書いたけれど。
 くるみは、遙のオリジナル。
 オリジナルでありながら、くるみは何故、遙よりも年下なのか?
 ……については、ゲームで見てください(笑)。

 てっきり、遙とくるみの関係が語られるシナリオかと思いきや。
 遙はほとんど関係してこないで、くるみの背負った苦しみと失踪の過去がメインとして語られる。

 愛くるしいくるみとの日常と、その彼女の背負う”傷跡”。
 さらに、くるみの失踪の謎。

 クライマックスで。
 主人公の誠が、くるみに訥々と語り、”証明”していく様子に、涙がこぼれてしまいました……。


   ●守野いづみ(女、22歳、アルバイター)

 声優・井上喜久子の演技が似合う、穏やかなお姉さま。
 と書けば、大抵の人はイメージできるのでは?(笑)

 守野くるみの姉であり、容姿端麗、性格穏やか、料理の腕は天才的。
 理想の姉。

 くるみと、遙との関係が紐解かれていく……と思いきや。
 シナリオライターは、すでに語られている話をトレースするのを潔しとせず?、これまたまったく別の物語を作り上げた。

 『infinity』の凄い所は、設定をキチンと守りつつ、それでいて全く違う五本の物語を作り上げている所か。

 ……ところが。
 このいづみのシナリオは、どうも……設定がキチンと守られていないような。
 これについては後述する。

 いづみのシナリオは、とても楽しいものだったけれど……この設定関係が気になって、のめり込むにまでは至らなかった。
 このいづみのシナリオでの設定狂わせさえなければ、私の中での評価点は、85点位までにはあがっていたかもしれない。


   ●飯田億彦(男、20歳、大学三年生)。

 主人公、石原誠のライバル的存在。
 有名な飯田財閥の御曹司。

 ナンパ師と思いきや、以外と純情?
 ってか、水着見た位で、鼻血出して気絶するなよ(笑)。

 取説に書いてあったけど、ホントに女性経験あるんでしょうか?
 疑問。

 遙シナリオでは、結構良いヤツ。
 最後のシーンで、彼の株はあがったね。

 ああもう、こういう面からも、遙がメインヒロインっぽいよ(笑)。

 機会があれば、未熟な面の多い彼を主人公とした、二次創作を書いてみたいな。


画竜点晴を欠く (ネタバレ注意)
 『infinity』は名作だ。

 練りに練られたシナリオ。
 縦横にめぐる伏線と、それが解きほぐされていく様が美しい。

 川島優夏、樋口遙、朝倉沙紀、守野くるみの四人のシナリオ。
 各自の設定がキチンと活かされつつ、それでいて、まったく違うシナリオ。


 ところが。
 私にとって重大な問題と思えるのが、守野いづみのシナリオだ。

 『infinity』をプレイした人は、このシナリオをどう思っているのだろうか?

 他の四人と同じように扱うべきなのか?
 それとも、あくまで外伝的なものとして受け止めるべきなのだろうか?


 私が気にしているのは、”億彦がいづみらと計らって、主人公を騙していた”って所。


 億彦は 1日の夜、ルナビーチでの交流で、誠が「予知」したという話を聞いて、からかってやろうと思いついた。
 それで、誠が予知した場合、それを自分たちで実現させて、からかっていたのだと。

「車のバッテリーがあがっていたと誠が言うのを聞いて、いづみは実際には動くはずなのに、バッテリーがあがっているように見せ掛けた」

「3日の夜、誠が夕食をカレーだといったら、皆で材料を掻き集めて、カレーを作った」

 これに対して誠は怒り狂い、

「沙紀が波に飲まれたことも嘘なんだな?」

「遙がクローンだっていうのも嘘なんだな?」

「いづみが告白したのも嘘だったんだな?」

 と叫ぶ。

 ……どこまでが本当で、どこまでが嘘で、そしてどこまでが誠の勘違いなのか?


 誠がいづみにだけ伝えた、「いづみが死んでしまうかもしれない」ということを、億彦たちは知っていた。
 ということは、いづみが億彦たちと騙らっていたという話は本当だろう。

 ならば億彦が言った、車のバッテリーとカレーの件は、億彦の言う通りかもしれない。

 では、他の三つはどうか?

 沙紀が波にのまれることも、遙がクローンだということも、別のシナリオをプレイしていれば嘘では無いとわかるはずだ。
 いづみが告白した……というのが真実だということは、いづみシナリオのEDを迎えた人にはわかるだろう。

 では、誠が怒って「嘘なのか!?」と叫んだことは、あくまで誠の勘違いであったと考えられる。


 問題となるのは、”億彦がまことを騙すために、車のバッテリーとカレーの件を、いづみさんに頼んだ”ということだが。

 他のシナリオでは、どうなっているだろうか?

 優夏、遙、沙紀、くるみのシナリオの一週目でも、バッテリーとカレーの事件は起こる。
 そして、あくまでもいづみのシナリオを正伝とするならば、他のシナリオでも、同じように億彦が騙していた、ということになる。

 だがしかし。

 二週目、誠は、予知のことを話さない。
 もちろん、いくつかの例外はあるが、一週目のように、皆に予知のことを相談することもない。


 ならば、二週目に、億彦が誠をからかう理由は無い。


 しかし、一週目と同じく、いづみは車のバッテリーがあがっていると言う。

 なぜ、いづみは嘘をつくのだろうか?

 あるいはそれとも。
 いづみは、本当に車は動くと思っているのだが、実際はバッテリーがあがっていたのか?
 一週目で誠を騙す必要などなく、本当にバッテリーがあがっていたのかもしれない。


 では、3日のカレーはどうだろう?

 二週目、誠はカレーのことをとくに言わないはずだ。
 たとえ言ったしても、他の予知のことを言っていないなら、億彦がいづみとかたらって、誠を騙すためにカレーの材料を掻き集める必要はない。

 さて、二週目の三日の夜、カレーは出てくるのか?

 答え。

 いづみ”お手製のカレー”は、出てくる。

 なぜ……?

 誠は言っていない、あるいは騙す必要もないのに、なぜ、カレーは出てきたのか?


 この点から、いづみシナリオの疑問を拭えず、他の四つのシナリオとは違う、外伝(おまけ)のようなものと、自分には思えてしまう。

 なぜなら、他のシナリオの設定が完璧であり、完全に噛み合っているというのに。
 このいづみシナリオとその設定を同列に扱おうとすると、つじつまが合わなくなってしまう。

 いづみシナリオを加えてしまうと、完璧な設定が乱れてしまうのだ。

 これが、どうしても気になった。
 気になって、いづみシナリオを心の底から楽しむことはできなかった。


 いづみシナリオは、しょせん外伝なのか?

 二週目、たまたま歴史がかわって、いづみがカレーを作ったのだ。
 ……だなんていう”ご都合主義を、自分は許せない”(笑)。


 一週目のカレーの事件を詳しく読んでみると。

 誠がカレーだと言った後、誠はいづみの料理作りを手伝おうとする。
 ところが、丁重に断られたと記述されている。

 となると億彦の言う通り、実際はカレーでは無かったのかも知れないと考えることもできる。
 なので、億彦の提案通り、いづみは誠を騙そうとしていたと考えることもできる。

 戻るが、バッテリーの件では、誠を騙す必要などなく、実際にバッテリーがあがっていた……と考えることもできる。


 いづみシナリオを外伝として捉えずに、他の四つのシナリオと同等に扱うことも可能だったはずだ。

 ただ一点、二週目の3日に、カレーさえ出てこなければ。

 もしも二週目で、カレー以外の食事が出て、誠が首を捻るようなことがあれば、これら五つのシナリオは完璧だったのに。


 私が、『infinity』で残念に思う所は、ここヒトツだ。
 せっかくいままで綺麗に積み上げてきた設定を、最後の最後でぶち壊してしまうようなミスを犯しているようにしか思えない。

 この設定ミス?がどうしても許せなくて、『infinity』をオールクリアしたときに心底感動できなかった。

 それで、自分の評価は80点。

 いづみシナリオのことを考えると、ホントは75点位に下げても良かったかも知れない。
 けれど、いづみシナリオの設定が完璧だったら、85点の点数を付けても惜しくない。

 惜しい。
 実に惜しい。